2015年4月24日(日)
牧村康正+山田哲久『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男』読了。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45227
昭和九(一九三四)年一二月一八日、西崎弘文(ひろふみ)(義展の本名)は父・正(まさし)、母・秋子の問に生まれた。生地は東京都小石川区原町、現在の住所でいえば東京都文京区白山になる。弘文が生まれた昭和初期には大企業の社宅が建ちならぶ閑静な高級住宅街だった。
なお同年三月、満州国(昭和七年・一九一.三、建国)では溥儀が日本の偲偏として皇帝の座に就き、ドイツでは八月にアドルフ・ヒトラーが総統に就任した。いうまでもなく、日本は戦争への道をひた走っていった時代である。
弘分の父・正は開成中学、一高、東大法学部と進み、日本興業銀行に勤務。後に実業界へと転じ、日本゙逹、日特金属工業など大企業の役員を歴任した。父方の祖父・弘太郎は帝国大学(現・東京大学)医科大学薬学科を卒業後、二高(現・東北大学)教授などを経て、東京女子薬学専門学校(現・明治薬科大学)校長に就任している。さらに弘太郎は薬学博士でもあり、正三位勲二等を受章した。父の妹、つまり弘文の叔母は日本舞踊の初代西崎流家元・西崎緑であり、母・秋子は聖心女学院を出ている。西崎家は資産もあり、その家系はいわゆる名家といっていい。後年深いつき合いになる石原慎太郎をして「家柄だけはお前さんに負けるよ。うらやましい」と言わしめた。なお、弘文の三歳上に姉の陽子、一四歳下に弟・隆二郎がいる。
昭和一六(一九四一)年、弘文は東京府豊島師範学校(後の東京第二師範学校)附属小学校に入学。戦時中は練馬への移転、秩父への疎開を体験し、 一〇歳で終戦を迎えた。ちなみに東京第二師範附属小学校、中学校の同窓名簿には、弘文とならんで脚本家・倉本聰、作家・柴田翔の名前がある。また、新聞社、大企業に勤める同窓生も多く、当時としては教育水準が比較的高い学校だったと推察できる。
小学校時代の弘文を知る数少ない証人に沢村景子(仮名)がいる。沢村家と西崎家は家が近く、母親同士が親しかった。景子は弘文より二歳ほど年下である。
ある日、景子は母親から思いがけないことを聞いた。
「弘文君が、あなたにガールフレンドになってほしいと言ってるそうよ。弘文君のお母さんか |
(64-65p.)
西崎が和子にのめり込んでしまったために民音が愛想を尽かし、第一期オフィス・アカデミーが終焉したいきさつはすでに触れた。西崎は仕事を棒に振る覚悟で和子と付き合い、和子も家族によって西崎との仲を裂かれた際には激しく抵抗したという。二人の思いは相当に深かったはずである。
二人が出会ったのは昭和三七(一九六一一)年頃と見られる。西崎の腕に彫り込まれた「和子命」という刺青(いれずみ)を見た者は多い。海に出る時は大きな絆創膏を貼っていたが晩年は隠そうともしていない。また劇場版「ヤマトー」のパンフレットには、西崎の写真の下に堂々と「和」という文字が刷り込まれている。その真意は定かでないが、和子への惚れ込みようは伝わる。
ところで和子の家系は、いわゆる一般庶民とは異なる。和子の父親・山口武夫は大正一五(一九二六)年に山口商店という会社を立ち上げた。この会社が鉄道省指定業者となって事業を拡大。後の山口美術印刷会社の基礎を築く。
武夫はいわゆる立志伝中の人物である。上流階級指向が強く、閨閥作りの一環として息子たちを松野頼三など大物政治家の娘と縁組みさせた。時期は不明だが、和子を旧五摂家の一つ、九条家に嫁がせたという。この間の事情を報じた「週刊新潮」(一九八五・三・二一号、前出)の記事で和子は四三歳となっている。従って和子は昭和一七(]九四二)年生まれ。西崎の八歳下になり、西崎と出会った当時は二三歳頃となる。なお、前出の「女性自身」(一九七七・九・八号)に次のような記載がある。
「だが、まもなく彼(筆者注・西崎)は、旧華族の人妻を愛して、真夜中に窓から彼女をつれ出すような関係におぼれてしまった」
密会の時期は最初の結婚からほどない頃とされており、この「旧華族の人妻」が和子と見て間違いなさそうである。
山口家はこうした家系であるから、西崎家が上流に属するとはいっても和子の父・武夫の眼中には入らなかったはずである。まして当時、芸能興行師であった西崎が結婚を望んだとしても不可能だっただろう。
その後、二人が結婚することはなかったが、交わりは続いた。そのうち和子は身ごもって出産。十数年後、西崎は東京女子医大でDNA鑑定をして実子と確認している。以降、和子親子はアメリカ本土やハワイに在住し、西崎は送金を続けていた。オフィス・アカデミi時代は印 |
(238-239p.)
「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気
牧村康正/著 山田哲久/著
出版社名 講談社
ISBN 978-4-06-219674-1
発売日 2015年09月
販売価格 : 1,500円 (税込:1,620円) |
- 事故死後四年を経て明らかにされる、カリスマ・プロデューサーの破天荒な一生。
- ※発売日が変更になりました
8月27日→9月9日
- 目次
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第1章 アニメ村の一匹狼
第2章 芝居とジャズと歌謡ショー 第3章 ヤマトは一日にして成らず 第4章 栄光は我にあり 第5章 勝利者のジレンマ 第6章 砂上のビッグ・カンパニー 第7章 破滅へのカウントダウン 第8章 獄中戦記 第9章 復活する魂
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