てあつめた。その結果、もう数年前から医者がイラリアに強い向精神薬をあたえていたことがわかった。治療の最中に彼女が落ちこんだりすると、ウイスキーまで飲ませていた。することといったら、彼女はいちばんの弟子で才能もあるから、まもなく自立して、こんどは彼女が人を治療する診療所をもてるだろうと吹きこむくらいなものだった。こんなことを書くだけで、いまでも身震いしたくなる。イラリアが足もともおぼつかず、めちゃくちゃで、自分の核がこれっぽっちもないというのに、もうじき他人の病気を治せるなんて、そんなこと考えられるかい。あのときしくじっていなかったら、わたしになにも言わずに、彼女のボスと同じやり方で、実際はじめていたかもしれないのだよ。
もちろん彼女は、そんなもくろみについてわたしにはっきり話したことなど一度もなかった。文学部を卒業したのにどうしてそれを少しも生かさないのかときくと、うす笑いを浮かべて言った。「そのうちに生かすわよ……」
考えただけで胃が痛くなりそうなことがいっぱいある。それを書こうとすれば、骨折りもひととおりでない。その尋常でない時期に、わたしには彼女のことがひとつわかった。それまで思いもしなかったことで、おまえに言ってよいのかもわからない。とにかくなにも隠さないことにしたのだから、言ってしまおう。わたしがふいにわかったというのは、おまえのお母さんがちっとも賢くないということだ。それを理解し受け入れるのは、たやすいことではなかった。子供を見る目はだれでも甘いし、そのうえあれがむずかしいことをわけ知り顔でならべたてるものだから、まんまとだまされてしまっていたのだ。もしもっと早くそれを認める勇気があったら、もっとしつかり彼女を愛し、守ってやれたかもしれない。守りながら救うことだってできただろう。
大事なのはまさしくそのことだったのに、気がついたのは、もうなすすべもなくなってからだった。状況をそっくり兄わたしてみて、その時点で唯一できるのは、イラリアにきつばり言ってやることだった。わたしがたとえあんたの子供をさらってきたって、いまのあんたには訴訟を起こしたくても起こせないんだよ、と。わたしたちはーつまりわたしと弁護士は−−その手段に出ることに決めたのだと言うと、おまえのお母さんはいきなりヒステリックにわめきだした。「はかったのね。みんなあたしから子供を奪うための作戦だったわけね」わたしが思うに、どなりながら彼女がなによりも気にしていたのは、もしなにかを意図することも望むことも不可能だと判断されたら、せっかくの将来のプランも水の泡になるということだったにちがいない。目隠しをされて深淵の縁を歩いていながら、まださきにピクニックのできる草原があると信じていたのだ。パニックがおさまると、弁護士をクビにして追いだせとわたしに |