今、その時の場面を思い出してのぼくの感想は、ぼくは、Kがあまりにひどい仕打ちをうけることを目の前にしたので、ぼくはそこから逃げ出して解放されようとした、ということだと思っている。入は、本当にきつい心の状態のときには、泣くことなど出来ないはずだ。ぼくはやっとその地獄のような場から逃がれて来て、ビールやハンバーグと出会うことが出来たので、心の解放が出来た。それはKのための時間ではなく、ぼく自身のための時間だったのだ。 その夜のことは、忘れることが出来ない。
著者/訳者
三木卓/著
出版社名
講談社
発行年月
2012年05月
サイズ
226P 20cm
販売価格
1,575円
本の内容
円満とはいえなかった夫婦生活を、優しさとユーモアに溢れた眼差しで振り返るとき、そこにはかけがえのない「愛」と呼べるものがあった?。逝ってしまった妻・Kへの想い。半世紀に及ぶある夫婦の物語。
ISBN
978-4-06-217670-5
著者情報
三木 卓1935年生まれ。静岡県出身。幼少期を満州で過ごす。早稲田大学文学部ロシア文学科卒。67年、詩集『東京午前三時』でH氏賞、73年「鶸」で芥川賞、86年『馭者の秋』で平林たい子賞、89年『小噺集』で芸術選奨文部大臣賞、97年『路地』で谷崎潤一郎賞、2000年『裸足と貝殻』で読売文学賞、06年『北原白秋』で毎日芸術賞ほか受賞。07年日本芸術院賞恩賜賞受賞。ほかに84年『ぽたぽた』で野間児童文芸賞を受賞するなど、詩、小説、児童文学など幅広い分野で活躍している